女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~

「さ、気分を変えてお風呂入ってこようっと」

 パチンと手を打って、くるりと体を回転させて風呂場へ向かう。

 だけど一瞬早く、桑谷さんが私の腕を掴んで引き止めた。

「・・・今まで君にヤツの写真を見せなかった理由を汲んでくれ。一人で何かしそうだったから見せなかったんだぞ」

 背中から斜めに彼を見上げて、平坦な声で言った。

「凄い信用ね、私」

「日ごろの行いだ」

 何だそれ。ムカつくぞ。むすっとして不機嫌な声で返す。

「じゃあどうして見せたの」

「ストレスで爆発されてまた姿をくらまされたら、余計に事が複雑になる」

 彼は低い声で付け加えた。

「・・・俺の身ももたない」

 まあ、その点に関しては私は前科があるわけだし。そう思って肩をすくめる。でもあれは、この男を手に入れたかったからで、ストレスで爆発しかけていたからではない。

 捕まれた腕を振り払って、体を向けた。

「もうあなたの前から消えたりしない」

 じっと見ていた。いつもの冷静な瞳だった。暫くしてから、やっと頷いた。

「・・・オーケー」

 ポン、と彼の裸の胸を叩いて、気軽に言った。

「じゃ、お風呂入ってきます。服着ないと風邪引くわよ、責任者」


 風呂の中で、一人作戦会議だ。


 着替えを取りに寝室に行く私を、まだ不安そうに彼が見ているのが判っていた。



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