女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
2、塩味のキス
桑谷さんがうちに住むようになってまだ1週間だ。
だけどもう既に、私の限界が来ているのが判った。
・・・まあね、と湯船に口まで浸かりながらため息をつく。普通なら、同棲していても職場が同じでもこんなに一緒に行動なんてしないだろう。
シフトの調整をするのと売り場への電話の対応もあるから、福田店長には伝えてある。
「ストーカー被害にあってます」
と。お陰で小川宛にかかってくる不審な電話は、店長が全部シャットアウトしてくれていた。
23歳の娘さんがいる福田店長には、ストーカーは現実的かつ許せないことなんだろう。行き帰りを桑谷さんとあわせているのでと伝えると、さっさとシフトの調整をしてくれた。大変有難い。もう店長の為に仕事をしよう。
ああ・・・それにしても。
いつまでもこのままでいいはずがない。
さっきの写真の事もだけど、桑谷さんは昔のパートナーと色々動いてるみたいだった。警察にも話はしてあると言っていた。ストーカー野郎には警察から訪問があり、威嚇してあると聞いたのだ。
だけど、減らない手紙に掛かってくる電話。本人の訪問はないけど、毎日確実に存在感を増すストーカー。
一緒に居すぎてアレルギーのようになり、桑谷さんとは抱き合ったりすらしなくなった。辛うじてキスをかわす程度の触れ合いだ。
あっちはどうか知らないが、私はそんな気分になれないのだ。そのような雰囲気を感じると、さっさと寝てしまったり逃げたりしていた。