女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
まだ朝の9時前だった。
ベッドから抜け出した後、海岸の浜辺を二人で散歩していた。
睡眠時間が短かった上に目覚めと共に激しい運動もしたけど、心も頭も澄み渡り、気分もよかった。
こんな短い小旅行とはいえ、やっぱり旅はいいな。心の洗濯だ。
今朝は曇り空で、景色はミルク色だった。
全てが白くてぼんやりと光り、そのたらんとした景色が優しく沁み込んでくる。
風も温度も冷たかったけど、靴を脱いで裸足で砂浜を歩いていた。
「連れ出してくれてありがとう」
私が言った。2歩ほど前を行く、彼の背中を見ていた。
「とても嬉しかったし、気分転換も出来た」
振り返らずに、彼は頷く。
波も水平線もそれにかぶさる雲も、すべてがミルク色だった。ベルベットみたいにまったりと沈んでいた。さらさらと風が吹きとおり、波の音が聞こえる。
ぼそりと彼の声が聞こえて、私は海から目を戻す。
「・・・・あのままだと、君を失うと判っていた」
私は立ち止まった。
波が砂浜を洗う音だけが響いていた。
そのままもう少し先まで歩いて、桑谷さんも止まった。そしてゆっくり振り返る。
「俺の過去の遺物に巻き込まれて不自由な思いをしていること、悪いと思ってる」