女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
透明な瞳をしていた。空と、海と、私が映る。ミルク色の世界で、彼は佇む。
「君は」
声が途切れた。しばらくして、小さく続けた。
「・・・・もう俺と一緒にいてくれないんではないかと」
あの大きな彼が、子供みたいに見えた。小さく小さく、縮んで。
私は言葉も発せず、それをただ見詰める。彼も静かな表情のままで私を見ていた。
結婚を約束した。
だけど私たちは、お互いの親の事も知らない。
彼のお母さんは生きているのだろうか。どこに住んで、何をしている人なんだろうか。
複雑な過去。暗い20代後半と、自分との戦い。彼は一人で戦ってきた。
『よく目を見開いて、この世の中を見ることだよ』
私を大切に、そして自由奔放に育ててくれた両親は、いつも私にそう言った。
自分の立っている場所をちゃんと見ること。いつでも把握しておくこと。
いつだって、敬愛する両親の言葉を実行する努力をしてきた。
だけど―――――――――
数歩先に立つ男の人を眺める。
・・・・全てに、その教えが当てはまるわけではないんだわ。
彼の過去から手が伸びてきて私を煩わす。それはこれからも起きることかもしれない。両親なら、今の内に止めなさいって言うかもしれない。
目を開いてちゃんと見ろと。
まり、ちゃんと、しっかりと周りを見なさい、と。どうしてわざわざトラブルに飛び込むの、と。