女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
私がカップを持ったままつらつら思い出していると、立ち上がって、お皿を片付けだした。
「買い物とかあるなら、今の内についていくけど」
日用品のストックを頭の中で思い出して、まだ大丈夫、と答える。先週必要なものは買っておいた。
それよりも、私が部屋についたばかりの彼を誘惑していたからもう既に11時だ。
「ここは片付けるし、行って。もうこんな時間」
壁の時計を見て、彼は頷いた。そして私を引き寄せて抱きしめる。
「・・・防犯だけは、守ってくれ」
「はい。畏まりました」
接客用の私の返事ににやりと笑って、手を離す。
「明日は出勤?」
「うん、私は早番。休憩もずれるね」
朝から入るか昼から入るかで、休憩時間が全然合わなくなるのだ。明日は一緒にお昼を食べれない。
「晩ご飯食えばいいさ。じゃあ、また明日」
そして大きな黒いスニーカーに足を突っ込んで、出て行った。
窓から入る10月の風を受けながら私はテーブルについたままで微笑む。
今年が始まった時は、まさか秋にはこうなるとは思ってなかった。
悪魔のような斎と5月に別れて、しかも殺されかけ、仕返しをし、別の男と出会って恋に落ちるなんて。私さえ頷けば、今頃人妻にまでなっていたわけで。
うわー、恐ろしい、この私が人妻・・・。まあ、だから人生って面白いだろうけど。
彼との出会いからを思い出して、一人で笑っていた。
そんな平和な休日だった。