女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
ミルク色の景色の中に、厚い雲を割って天空から光りの梯子が下りてきた。
そこの場所だけ、海が輝きを放つ。
私は彼から目を離し、その光景を眺めた。
そして靴を脱いだままでその場に座り込み、風を顔に受け、砂の感触を足と手で楽しむ。
すくいとった砂が風に流されて散らばった。私はそれを目で追う。
そして、口元をゆるめた。
彼はとても複雑な人。だけど―――――――――
だけど、自分で決めたのだ。
私は片目を瞑ろうと。
敢えて全ては見ない。全部を見回して、その膨大でほの暗い彼の過去に疲れてしまわないように。
見なくていいものも、この世の中にはある。
知らなくていいものだって、たくさんある。
だから私は片目を瞑る。彼と一緒にいる為に、喜んで視界を狭まらせよう。
ゆっくりと彼に視線を戻して、微笑んだ。
「・・・欲しいのは、嘘になるかもしれない約束、それともリアルタイムの真実?」
彼も海を見ていた。そして黙っていた。
短くなった前髪が、彼の額をさらさらと擦る。
桑谷さんは海に向けていた視線を私へと戻し、目を伏せてから言った。
「―――――両方」
覚悟したような声だった。