女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~


 彼は眉をひそめてしばらく私を見下ろしていたけど、いきなり私の両手首を押さえつける片手の力を強くした。

 そして空いているもう一方の片手で私の体中を触りだした。

 体重をかけて乗り、私の首筋を舐める。

 襲われるってシチュエーションだけあって力づくの無理やりで、不快感で全身が総毛だった。

 でも、どんな時でも一番大事なのは平常心で目的を達すること。

 私は歯を食いしばって意識から彼の手の動きを遮断し、集中した。

 そして、ガッチリ捕まれている両手首を、気合と共に力をいれて反対に回した。

 くるんと手首が回って、彼の片手では掴んでおけなくなった。

 ハッとして、私の首筋に埋めていた顔を上げた桑谷さんに、思いっきり頭突きをかます。

 それは顎に命中し、くぐもった声を上げて彼がのけぞる。

 そのまま今度は自由なった両手を体の横まで下げて、肩を突き上げた。体の関節は非常に武器になる。

 これは桑谷さんの左頬に命中。

 ついに上半身を起こした彼の頭めがけて渾身の力で右の拳をふるった。

 ガキッといい音がして、ついに彼が私の上から落ち、顔を両手で抑えたまま横に転がって呻いた。私はさっと立ち上がって左手をだらりと下ろしたまま腰を屈めて構えた。

「ま――――・・・待て!・・・ちょっと、タイム!」

 両手で顔を押さえたまま彼が切れ切れに叫んだ。


< 85 / 144 >

この作品をシェア

pagetop