女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
私は左手をぶらぶら振って痛みがないのを確かめながら言った。
「ストーカー野郎に無駄口叩いたのは謝ります。でももう我慢の限界だったのよ」
出来れば、一対一で対峙したかった。そしてさっさとケリをつけて、彼を取り戻したかったのだ。
うつ伏せのまま肩ごしにちらりと彼がこちらを見た。
そして、長いこと目を伏せて考え込んでから、おもむろに立ち上がった。
「・・・確かに俺もうんざりだ。これから繁忙期が始まるのに、狂人に構ってる暇はない」
桑谷さんは台所に行って氷水をビニール袋に入れ、腫れたところに当てる。そしてそのまま話していた。
「詳しい作戦を立ててくるよ。実はもう、種蒔きは終わってるんだ。あとは、開始するだけ」
え?と私は彼を見詰めた。
種蒔きって、どういうこと?一体何が始まってるって?
クエスチョンマークを頭の上に打ち上げた私を見て、桑谷さんは軽く笑った。
「俺と昔のパートナーが、この1ヶ月何もしてなかったわけじゃない」
・・・・何だって??と思って私は目を開けた。ニヤニヤしている彼に向かって言った。
「次はちゃんと私もいれて頂戴。でないと・・・勝手に動くわよ」
彼は頷いた。想定内の事なんだろう。
「判ってる。勿論そのつもりだ。君を放っておくと危なっかしくて仕方がないからな」
氷嚢を持ったまま私の前に来て、改めて向かい合った。
「じゃあ、話すよ。質問は最後にまとめてにしてくれ」
私は頷いた。若干緊張していた。
私の拳も氷で冷やしながらじっとして話を聞く。
話は夜の11時までかかり、後は桑谷さんが出かけてしまって私は眠った。
彼がいつ帰ってきたかは知らない。
でも、朝起きたらちゃんと横で寝ていた。
私は守られているんだ、と心の底から思った。