女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
「桑谷さんに怒られますよ」
「そうですね」
「・・・私も、怒られるんですが」
うーん、それは可哀想だ。確かに、あの人は怒っている時は普段より迫力が増して恐ろしくなるしな。巨大な炎を背中に背負って生田刑事に詰め寄る桑谷さんを詳細に想像してしまった。
うな垂れる生田刑事の肩をポンポンと叩いて慰める。
「私が勝手に動いたことにしておきますよ。というか、事実そうですしね」
ニコニコ笑っていたら、生田刑事は暫くそれを見ていて苦笑していた。
「・・・大変なお嬢さんですね」
「褒め言葉ですか?」
「・・・しかも、前向きなんですね。羨ましいです」
携帯電話を返して貰って立ち上がった。
大したことがないからと病院にいくのは断って、事情聴取の約束をさせられ、生田刑事にお礼をいう。イライラして待ってるだろう桑谷さんのところに向かうことにした。
騒がしくなった近所の中を、私は関係ありませんってな顔で自分の部屋に戻る。
玄関を開けると、狭いたたきには男物のデカイ靴が3足もあって一杯だった。
トレンチコートを脱いでいたら、ドアが開いた音に気付いたらしく、居間の入口に桑谷さんが現れた。
「あ、ただい――――」
ま、と続けようとして、彼の目が包帯を巻かれた私の左腕に固定されているのに気付いた。
「――――怪我したのか」
声が低くなっている。