愛ある強さと愛なき世界
プロローグ
「ふんふんふふーん♪」
陽気な声が部屋に響き渡る。
「んー、これは違う…」
ほうれん草、ベーコン、スイートコーンをバターで炒めながら、彼女は大きくため息をついた。
ピリリリリリリ…
その時、机に置いてあったスマートフォンが鳴り響いた。
彼女はすぐさま手に取り、肩と耳でスマートフォンを器用に挟み、料理を止めることなく電話に出た。
「もしもーし、なーにー」
大して嬉しそうでもない声で彼女は電話越しの相手に話しかける。
『漆黒の猫-ブラックキャット-、応援を要請する』
「あーら!リズちゃーんっ」
その声を聞き、何トーンも声が高くなった彼女は、電話越しの相手、リズにべらべらと話しかける。
「もう会いたかったんだよー?ぜんっぜん来てくんないし、まあ忙しいのは分かるけどさぁ。でも1回くらい来てよね!」
『ああ、悪い。ところで早く来てくれ』
リズの声はどこか焦っているように感じた。
「はあぁ。良いよ、受ける。で?場所は?」
『お前の大嫌いな所だ』
「イスラムかぁ…おーけ。10分後料理できるから15分後そっち行く」
『ありがとう』
「良いって事よ!それまで死なないでねリズちゅあーん」
電話を切り(一方的に切られ)、ちぇっと言いながら料理を完成させてしまう。
味見をし、おいひぃと頬を綻ばせ、皿に盛っていく。
ガチャ
玄関のドアが開き、「ただいまー」と声がする。
「おかえりなさい、ご飯できたから食べちゃって?あと、洗い物はお願いねっ」
それじゃあ、と言って彼女は一瞬で服装を変えた。
黒のコートで身を包み、下は恐らく黒のピッチピチのスーツだろう。
漆黒の猫と呼ばれるだけあって、服装は黒統一だ。
唯一彼女らしいのが猫耳ヘッドホンだ。勿論音楽も聞けるが電話としての役目もしているとか。
「漆黒の猫の名にかけて、ミサキ行ってきまーす」
その声と共に彼女、ミサキは一瞬で姿を消した。