うたかたの恋
けれど、一人だけ。
あの頃の私に、
心からの優しさをくれる人がいた。
学校一の遊び人と言われる彼は、私の冷えきった心にズケズケと入り込んできて。
まるで、何も気にしていないかのように。
私に対しても、身勝手だった。
心底うんざりしたし、
私のことなんてもう放っておいてほしかった。
それでも彼を突き放せないでいたのは
きっと心のどこかで嬉しいと感じていたから。
素直じゃない、素直になれない私に
彼はいつだって真っ直ぐ接してくれた。
周りに気を遣われてばかりだった生活は
彼に出会ったことによって、一変した。
砂原 和慈(さはら かずちか)
それが彼の名前。
私は、彼をチカと呼び
彼は、私をなっちゃんと呼んだ。
夏目 一花(なつめ いちか)
それが私の名前。
夏目の苗字からとった、なっちゃん。
それは何だかくすぐったいし、恥ずかしいと思った。
だけど、それよりも心地いい感じがして。
彼が私をそう呼ぶのが、いつしか当たり前になっていた。