短編集『明日になったら死ぬほど面白いコメディ思いつくかもしれない。』
「付け合わせは、紅茶でよろしいか?」

「ごめんなさい、僕、お紅茶代までは、、」

「サービスです。飲んでってください。こうやって、淹れる前に、葉を手で揉んでやるとね、香りが引き立つんだ」

ウサギは、手で擦り合わせて、粉々になったお茶っ葉を、白いティーポットに入れました。

さあ、優雅なひとときの始まりですーー

湯気でくゆらせられたお紅茶は、一切れのチョコロールケーキと共に、、

お盆にのせ、ウサギが器用に運びました。

「召し上がれ」

「いただきます」

斎藤は少しく一礼をしました。

ズズ、、

少し音を立てて紅茶を飲みます。スッキリした味わいは、暖かさと共に、肺に染み渡ります。

こんな美味しいお紅茶は、何年ぶりでしょう。

「美味しいです」

「ささ、ケーキを召し上がっておくれよぅ!なんせ、今日の一番の自信作だ」

「それでは、、」

フォークを突き立て、チョコロールを頂きます。

酸味の効いたケーキは、とても味わい深く、時の流れるのを忘れさせてくれます。

斎藤は、ペロリと平らげてしまいました。

「ごちそうさま。ゲフー。とても美味しかった」

「また来てください」

「また来ていいんですか」

「いつでもどうぞ」

「夜は何時まで」

「僕はね、ケーキ作りが好きでね、ずーっと作ってる」

「寝ないんですか」

「寝ない」

「死なない?」

「死なない」

斎藤はそれ以上、聞くのをやめました。

だって、ずっと、ウサギさんのケーキを食べていたかったんですもの。

「ごちそうさま。」

小さな木の戸を潜るとき、もう一度、はんぶん振り返って言いましたら、ウサギは、もう、メレンゲをかちゃかちゃと泡立てていましたとさ


おしまい
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