それでも私は恋をする

同居する

 いい匂いがキッチン中に広がる。
 そういえば私、今日のメニューを言ってない。拓海君は何を作ったんだろ? これは……カツだよね。私が用意したのと同じ。迷いなく何を作ってたかわかるんだ。片親かな? 両親共に引き取れない事情になるのはなかなかない。片方が事件の被害者であっても加害者であっても、または事故死などでも、どちらか片方は我が子を育てられるから。だから、両親がいてって少ないケースなんだけど……。
 私の血はずっと出っぱなしだったけど、ようやく止まる気配を見せてティッシュを替えるペースが遅くなってる。そろそろ立ち上がれるかな? 少し立ってみようとしたけどやっぱりダメだった。これって絆創膏じゃあ、やっぱり手に負えなだろうな。

 もう調理が終わったみたいで拓海君がこっちに来た。
「テープどこにある?」
「ん? あ、あっちのそこ」
 拓海君は私の指差しでテープを持って来た。何するの? と、拓海君はティッシュを折りたたんで怪我してる指に巻いてテープで止められた。
「なんかいいのあったらそれに替るけど、とりあえずこれで。出血まだあるみたいだし」
「ありがとう」
 拓海君は優しい。だけど、優しくされると戸惑う。困る。彼を思い出すから。いつも私に優しくしてくれた彼を……。

 *

「飯は食べれる?」
「あ、うん」
 すっかりお世話される側になってる私。そいういうしっかりしたところも彼に似ている。

 彼は母親だけだった。その母親が事件の加害者となり刑罰を受けることになり彼は一人になった。彼が選んだ道は一人で生きて行く事だった。彼を引き取りたがらない人たちのところに無理やりいたくなかったからだろう。「自由でいたいんだ」って自分で選んだ未来なんだって精一杯頑張っていた。
 あー! もう。ダメ! 私ちゃんとしないとそのうち泣き出して拓海君を困らせるよ。

「ねえ、学校では一緒に住んでるのは内緒にしない? みんな好奇心旺盛だから」
 いろんな意味で。拓海君がなぜ我が家にいるかとか、一緒に住んでること自体にもいろいろ言われそうだから。そして果歩にはバレたくない……。
「うん? ああ。別にいいけど」

 ***

 ということで、はじまった拓海君との同居生活。どうなるのか不安でいっぱいの私とポーカーフェースの彼、拓海君。

 ***

 次の日。
 朝から別々に登校した。同居を隠す為ではなく、拓海君は初日は早くに登校するように学校からの指示があったから。
 拓海君とクラスが別になった。よかった。まだ親指の傷が響いててお弁当作りもできなかった。本当は少しお弁当の中身を変えておきたかった。お弁当ってすぐにわかるよね。お弁当はおかずが限られてるから、一緒に作ったって。拓海君はそんなことは少しも気にせず朝から全く同じお弁当を私の分もちゃんと作成してくれていたから。作ってもらって文句は言えないです。が、クラスが違うとわかるまでドキドキだった。クラスが違うならバレないから良かった。

 *

 朝から休み時間の度に女子が盛り上がってる。なんだかとびっきりの話題がありそう。
お昼になり果歩と拓海君作成のお弁当を美味しくいただいた。拓海君、昨日の晩ご飯も美味しかったしなかなかやるな! と思っていると、果歩がどこかへ行ってしまった。きっと今朝からの話題を拾いに行ったんだろう。これでようやく私にも話がくる。いったいなんの話題かな。まあ、どうせ誰かと誰かが別れたとか、二股だったとか、ガッカリネタなんだろうけどな。
 果歩が急ぎ足で戻ってきた。おお! 私に急いで持ってくるネタってなに? 期待が膨らむよ! 果歩は高一から友達だったから私をよくわかっている。ゴシップや不幸な話は嫌うって。
< 3 / 46 >

この作品をシェア

pagetop