それでも私は恋をする
 春休みのある日、拓海に内緒で類に会いに行った。類にどうしても言いたくって。
 類の家の前のファミレスで、あの日と同じ席で類を待つ。今日は果歩と卒業前に遊びに行ってると拓海には言っている。きっと拓海に本当のことを言ったら心配してついてくるだろうから。あの日と同じように。まだ拓海は、類のこと気にしてるみたいにだから素直に言えなかった。類に会いに行くって。
 あ! 来た。
 前回とは違って今日は類の帰りが早かった。

 *

 類の家のブザーを鳴らす。

 ブー

 なんか懐かしい。あの時は暑さでじわじわと体中から汗が流れ出たけれど、今は寒さがだいぶ和らいで暖かい日差しを感じることもある。今はもう日が暮れてしまって、少し寒いぐらいだけど。
 もう一度鳴らそうとブザーに手を持って行くと

 ガチャ

 類がドアを開けた。類はずっと変わらないな。
「ア、アリス?」
「久しぶり! 類!」
 類には受験の三日前に家庭教師として会った後はしばらく会わないでいた。その後、合格祝いに父と母と拓海と私とでご飯を食べに行った時に会っただけ。その時には父も母もそれに拓海がいたから類と二人で話をすることも出来なかった。
 だから、こうして来た。
「と、とりあえず入るか?」
 類はまた慌ててる。けれど、今度は私の腕を取らない。私にはもう拓海がいるからだろう。
「ううん。ちょっと言いたいことがあって来ただけだから」
「うん? なに?」
「それでも恋をして」
「……え?」
「類だって恋したっていい。もう自分の気持ち押し込めたりしないで」
 類のこと考えてた。ずっと、長い時間。類は自分を殺して生きてきた。今もきっとそうだろう。もう、そうして欲しくなかったから。類にも明るい未来はきっとある。
「……うん。わかったよ。アリスありがとう」
「じゃあね。またね、類!」
「うん。……またな」
 類にも私にも明日がある。その未来がどうなるかなんてわからない。だけど、それでも類には諦めて欲しくない。未来を。可能性を。だから、また。で、別れたかった。またね。で。

 ***

 拓海の新居である一人暮らしのマンションは私の家の近くだった。どうやら拓海のお父さんから一人暮らしの条件に我が家の近くという話がはじめからあったらしい。もう! 早く言ってよ! 離れて暮らすのさみしいと散々言わせられたのに……結局自分の家より拓海の家にばかりいる私。あの私の涙を返せバカ!
< 44 / 46 >

この作品をシェア

pagetop