bitter days
しばらく経ってから、やっと顔を上げて郁の顔を見ることが出来た。
私はこんなに動揺しているというのに、郁のやつってば平然としている。くそう。
「なんで、付き合うことにしたの?」
「んー」
「・・・なんとなく?」
「んー」
「それとも、結構いいやつだから?」
「・・・お母さんが喜ぶかなって。」
そう言った時の郁の表情は、さっき付き合ったと報告してきた時のような女の子の顔をしていなくて。
捨てられた子犬のような、この世界に絶望して、わずかな光にすがるような、そんな顔をしていた。
この件で、郁がお母さんの死を受け入れられていないことをはっきりと知った。
普段はいつも通りにしているけど、全然だ。
さっき私が見たのは郁の弱みのほんの一部で。
郁は、とてつもない悲しみに覆われているんだ。
「そっか。」
そう言う以外、他に選択肢があったんだろうか。