bitter days



もじもじと答えるあたしをじっと見つめたかと思うと、奈美はお通しの小鉢に箸を伸ばしながら口を開いた。



「その気持ち、分かるよ。あたしもそうだったもん。」



「え、ほんと!」



あたしは思いがけない奈美の言葉が嬉しくて、思わず席から少し腰を上げて奈美に詰め寄った。まさかの反応だったから。奈美は曲がっていることが嫌いなタイプだから、わたしみたいな彼氏との距離の取り方は好きじゃないとずっと思ってた。



「ほんとよ。あたしの場合、年下とばっかり付き合ってきたからね。余計そうなっちゃうっていうか。
向こうもリードしてくれることを望んでるしね。」



奈美はあたしの興奮なんかちっとも気にせずに、箸とジョッキを傾けるスピードは変えずに淡々と話し続けた。
だからあたしは相槌を最低限にして奈美の話に耳を傾ける。



「だから私もそれが普通だと思ってたんだよね、今の彼と付き合うまではさ。
今の彼が年上っていうこともあるけど、頼って、頼られてっていう関係になることが出来ててさ。
なんかこの感覚いいなあって思ってたとこなのよ。

あたしだってやっと最近分かったんだから、別におかしくないからさ。
いつか、郁もそう思えたらいいね。」



そう言ってジョッキと小鉢から視線を外してあたしを優しく見つめる奈美に、自分の中で何かがこみ上げてくるのが分かった。


この感情が自分だけじゃなかったという安心感と、奈美があたしを心配してくれているという申し訳なさと。







自分はこれから奈美みたいに変わることが出来るのかなという不安と。









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