私、あなたを呪ってマス! ~こちびOLと凶悪な先輩、芹沢彰人の日常~




「井川さ~んっ」
と小春が自分に抱きついてきた。

 ガチャンッとすごい音が足許でして、誰か来るかもっ、と怯えたのだが、自分の胸にすがる小春に動揺して、井川は身動きひとつ取れなくなっていた。

 うわっ。
 鼻先ですごいいい匂いがするっ。

 髪、さらさらだしっ。

 細い髪が顔に当たって、なんかもう……

 くらくらして来た。

『井川くんは、いい人よね』
と女の子はみんな言う。

 いい人。
 恋愛対象にならない人間に送る典型の言葉だ。

 小春が今、平気で自分に抱きついてくるのも、男だと思っていないからだ。

 わかっているのに、淡い期待を抱いてしまう。

 このまま、彰人と別れないかな―― と。

 彰人が小春を気に入ったらしく、連れ回しているのも、罰ゲームごときでキスまでしたのも気に食わなかった。

 幾らでも色っぽい美女を選び放題なのに、なんで、僕が密かに目をつけていた小春ちゃんをっ、と思ったからだ。
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