私、あなたを呪ってマス! ~こちびOLと凶悪な先輩、芹沢彰人の日常~
 だが、視線を外すことも出来なかった。

「あ、彰人はこの間、出張ついでに実家に帰ったから、花音ちゃんには会ったばかりのはずなんだけど」
と動揺したまま言うと、小春は泣きそうな顔をした。

「花音さんは、実家の近くの方なんですか?
 昔からの恋人とか?

 ひどい~っ。
 そんな港港に女が居るみたいに~っ」

 なんだかひどい誤解をしているようだとは思ったのだが、冷静に判断する頭がなかった。

「あ、あの……小春ちゃん、落ち着いて」
と言いながら、小春を抱いていた。

 誰かが見ていたら、お前が落ち着け、と言われるところだろうが。

 そう自分で思ったとき、ガシャッと後ろで音がした。

「……井川。
 なにをしている」
と低くてよく通る声だ。

 目の端に小春が落としたステープラーをつかんだ彰人の姿が見えた。

 ひいっ。

 殺すのならっ。

 殺すのなら、僕じゃなくて、小春ちゃんにキスした奴をっ、と心の中で絶叫していたが、実際には、恐怖のあまり、声のひとつも上げられてはいなかった。





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