私、あなたを呪ってマス! ~こちびOLと凶悪な先輩、芹沢彰人の日常~
 



 予想に反して、次の日、エレベーターで一緒になった彰人は、あっさり普通に話しかけてきた。

「おう、こちび」

 こっちが、フーッと毛を逆立てているのにも関わらず。

 ……なんかそれはそれで寂しいな、と思ってしまう。

 こっちが本気で怒っていても、彰人にとっては、ちょっと猫が機嫌が悪いな、くらいのことでしかないのだと思い知らされた気がして。

 ふんっだ。

 ばーかばーか、と声に出さずに、他の部署の人と前で話している彰人の背に向かい、言ってみる。

 彰人が先に降り、小春はまだ乗っていた。

「なにが、ばーか、なの?」
と横で声がする。

 見ると、小春の左手に立っていたのは、保奈美だった。

 彰人しか目に入っていなかったので気づかなかった。

「私、声に出して言ってました?」
と問うと、

「ううん。
 でも、口が完全に、ばーかって動いていた」
と言う。

 ぷっ、と右横に居た知らない男の人がこちらに背を向け、笑っていた。
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