私、あなたを呪ってマス! ~こちびOLと凶悪な先輩、芹沢彰人の日常~
遅れる~っ、と小春が走っていくのを見送り、笑った菅野は、井川がエレベーターに乗らずに、残っていることに気がついた。
彰人のような美形ではないが、いつも愛想がいいので、女子受けもいい井川があまり笑っていない。
小春の消えた給湯室の方を見ながら、
「あれ、彰人の飼い猫だよ」
いいの? と訊いてくる。
誰が猫だ。
あれでも人間だ。
……たぶん。
「お前こそ、いいの? あれを彰人の猫にして」
と菅野は訊いてみた。
「お前の方が小春を好きかと思ってた」
井川は黙っている。
「お前、王様になにもかも持ってかれちまうな」
前の彼女も、確か、彰人がいいとか言い出して別れたはずだ。
「あれは彼女が一方的に彰人がいいって言ってただけだよ。
彰人は相手にもしていない」
だから、いいんだ、これで、と井川は言った。
「簡単に、他に、なびくような女はいらない。
彰人のおかげで、ふるいにかけられるよ」
「……人の良さそうな顔をして、お前の方がしたたかだな」
彰人は仕事の面では、策略を巡らすのが得意だが、実生活は実にストレートな人間だから。