明日の君に手を振って

「仁科さん、お兄ちゃんみたい」

パンケーキもすっかり冷めてしまって、涙もようやく収まった頃『ありがとう』の言葉と一緒にそう笑った。
さっきまでのモヤモヤは本当に涙と一緒に流れ出たのか心は今、穏やかだ。

もちろん私は私で、朋美にも誰にもなれないんだけど。

「お兄ちゃんはないんじゃないの?」
「ここまで自分の気持ち突き詰めさせられたのは久しぶりですよ」

他の誰かに成り代わっても、その人の幸せをもらえる訳じゃない。
だから自分に戻って、前を向かないと。
ありがとうございます、と口を開きかけたとき、仁科さんが私を見つめてハッキリと言った。

「これから口説こうと思ってる女に兄ちゃんみたいはさすがにこたえるけど、俺も」



どくん、と脈打つ心臓が痛くて、新しい風が吹く予感。
雨に濡れた街が光を増して、窓の向こうで輝いていた。





明日の君に手を振って・完

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