鷹司家の使用人
出会い
「あっちだ、捕まえろ!!」
「逃すんじゃねえ!!」
静まり返った闇夜に似つかわしくない怒号が響き渡る。
民家から少し離れた場所だけあって、追っ手と私以外の人の気配さえない。
ジャリジャリ。と、砂利道を駆け抜けるその足は裸足で石や破片によって切れて血が出ているが、痛みを感じる暇もなく走る。
「しつこい。」
自分の呼吸音と心臓の音だけがやけに耳に纏わりついて、既に限界寸前。
流れ出る汗を拭いながら、懸命に足を動した。
そんなにも私を逃したくはないの?
この追っ手の人数に、そんなに必死なのかと問いたくなる。
たかが小娘1人に何十人もの人を遣わすなんて、よっぽど私は重宝されていたらしい。
私は一度たりとも〝あそこ〟が楽しい場所だと思ったことないっていうのに。
むしろ、人間として扱われていたのかさえ疑わしい。