部長っ!話を聞いてください!
1、痛い夢
私のデスクは通路側の出入口近く、その対角線上、窓際最奥の一番遠い場所にあるのが神崎部長のデスク。
「部長っ!」
歩み寄り呼びかけると、ブラインドの下がった窓を背にしパソコンに向かっていた部長が、面長の顔を私に向けた。
さらりと揺れた黒髪が光を弾く。色白な肌。くっきりとした二重。すっと通った鼻筋。形の良い薄い唇。
純粋な輝きを宿した黒目がちな瞳に捕らえられ、胸がきゅっと疼いた。
「確認お願いします!」
「あぁ」
部長の甘々バリトンボイスにまたキュンとしてしまう。
伸ばされた手に、両手で抱え持っていた分厚い紙の束を乗せ……私は眉根を寄せた。
あれっ……これって、何の報告書だったっけ?
確認お願いしますと言っておきながら、何の書類だったか思い出せない。
しかもやたらと量がある。なんだこの分厚さは。
神崎部長は受け取ったそれをドサリとデスクの上に置き、椅子から立ち上がった。
「土屋、よく頑張ったな」
労いの言葉と、部長の微笑みに、浮かんでいた疑問が一瞬でどこかに吹き飛んでいった。
「部長~~っ! 有難うございます!」
褒めてもらったことが嬉しくて、そして、ほほ笑む部長がカッコ良すぎて、デレデレとだらしない笑みを浮かべてしまう。
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