部長っ!話を聞いてください!
4、自由奔放な姉
電車を降り、私は足取りも軽く自宅マンションへと向かっている。
右手に持っている手提げの紙袋を覗きこめば、可愛くラッピングしてもらった小箱が見えた。
その中には、先ほど一目惚れした黒のスワロフスキーのカフリンクスと、似たような黒いストーンがついたネクタイピンが入っている。
そして可愛らしい箱の横では、朝顔の種の入った小袋が揺れている。
種の袋には、ひとことメッセージを書いた付箋を貼りつけようかと思っている。
最初に、“部長! 誕生日おめでとうございます!”。
そのあとは……どんな言葉を続けようか。
今夜はそのことで頭がいっぱいになってしまいそうな予感に、笑みを浮かべた。
けれど、幸せ気分はそこまでだった。一瞬で吹き飛んでいった。
自分の住んでいるマンションを見上げ、私は一回、二回と瞬きをする。
「……えっ」
私が住んでいるのは、二階の左から二番目の部屋なのだけれど……なぜか、部屋の電気が付いている。
しかも、目を向けた今この瞬間に、部屋の明かりがついたのだ。
部屋に誰かがいるのは明白である。けれど、それが誰なのか見当もつかない。
「……ちょ、ちょっと待ってよ」
完全に足が止まってしまった。
気味が悪くて、言葉を失ってしまう。