部長っ!話を聞いてください!
「土屋」
突然、部長が私に向かって両手を広げてきた。
「……えっ」
予期せぬ部長の行動に、目を見開いてしまう。
そ、そ、そ、それってもしかして……抱き締めてくれるってことですか!?
土屋、頑張ったご褒美にハグしてやる。俺の胸に飛び込んで来い!……って、ことですかっ!?
驚きながらも、即座に私は(自分に都合よく)そんな解釈をしてしまった。
「ぶっ、部長、良いんですか!?」
そうであってほしい! 抱き付いて良いなら、抱きつきたい!
ちょっとずつ手を伸ばしながら確認すると、部長が大きく頷き返してくれた。
「ぶっ、部長ーーーーっっ!!」
ほとばしる熱い気持ちと共に、私は勢いよく神崎部長に飛びつい――……。
「――……ぐっ」
ドサリと、体がベッドから落ちた。
「いっ、痛い。鼻が、鼻がぁっ!」
痛む鼻を抑えながら、周りを見回し、がくりと肩を落とした。
私がいるのはオフィスではなく、見慣れた自分の部屋の中だ。
一人暮らしをしているため、自分の他に誰もいない。
掛け布団がベッドから床へとだらしなく垂れ下がっている。
もちろんそこにも部長の姿はない。
「……あとちょっとで、部長に抱きつけるところだったのに」