部長っ!話を聞いてください!


「お姉ちゃ…………ん?」


呼びかけながら軽く手を振ろうとしたのだけれども、姉は口と目を大きく開き、慌てて部屋の中へと戻っていった。


「……え? 何?」


普段なら手を振り返してくれるというのに、不自然すぎる行動に混乱が生じる。

後ろに誰かいるのかと思ったけれど、やっぱりこの場には私しかいなかった。姉の慌てた原因は“私”ということで間違いないだろう。


「……えっ。どういうこと?」


なぜ姉が焦った様子をみせたのか。

許可なく勝手に私の家の中に入ったからかな。

そんなことをぼんやり考え、数秒後、そこはかとなく、嫌な予感が湧き上がってきた。

自分自身、何が“嫌”なのかは、はっきりわからないけれど、これまでの経験上、こんな気分になって何事もなく終わったことなどない。

家の中で何かしていて、それで私が帰ってきたのを知って、慌てている。

漠然と立てた予想が、「きっとそれだ!」という力強い予感に変化していった。


「よ、よく分かんないけど、やめてよねっ!」


即座に私は、エントランスに向かって走りだした。

走りながら思い出すのは、学生のころ。


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