部長っ!話を聞いてください!
大きく息を吸い込んでから、私はドアノブに手をかけた。
つい眉根を寄せてしまう。鍵がかかっていたからだ。
すぐさま鞄の中から自宅の鍵を取り出し、鍵を開けた。
「お姉ちゃんっ!?」
勢いよく玄関内に飛び込み、動きを止めた。
靴が二足ある。しかも女性ものと男性ものが一足ずつ。
ということはつまり、部屋の中に居るのは姉だけではない。あと一人、男もいるということだ。
「ちょっと待ってよ」
男とふたりっきりで何をしていたか。
男と二人で、茶でも飲みながら、部屋の中でまったりお喋りをしていた……なんてことは、姉に限ってないだろう。
向かって右側にはキッチン、左側にはお風呂場やトイレがあり、その先に進むと八畳ほどの部屋がある。
部屋に続く戸口が微かに開いていて、その隙間にちらちらと姉の姿が見えた。
おまけに声も聞こえてきた。
「どこかに隠れてて!」
「隠れるって……もうバレてんじゃねーの?」
はい。バレてます。
姉が男を連れ込んでいるのは、分かってます。
私は拳を握りしめた。
行きたくない。けど、私だけの大切な空間に見知らぬ人間が入りこむことは我慢ならない。