部長っ!話を聞いてください!
それなのに、実家から出ない……出られない理由はそこにあるのだ。
たぶん、さっきいた男は姉の彼氏ではない。ただの男友達だろう。
姉のそんな面を両親はちゃんと知っているのだから、一人暮らしなんてさせてもらえるわけがない。
腹が立ったから合鍵を返してもらったけれど、合鍵がないことが親にばれたら、予想通り、姉はものすごく叱られると思う。
しばらくは、会社と家を往復するだけの生活が待っているだろう。
自業自得ではあるけれど……あんな姉ではあるけれど……優しいところもあるから、嫌いではない。嫌いになれない。
親が気づくのが早いか、それとも私がこっそりと元の場所に合鍵を戻すのが早いか。
姉の運命は天に任せることにしよう。
告げ口はしないことに決め、掛布団をめくり上げた瞬間、ぼろりとシーツの上にティッシュが落下した。
「……げっ」
軽く丸められていたそこから、使用済みの避妊具がはみ出している。
「さっ、最悪っ!」
こんなことは二度とごめんだ!
合鍵は直接母親に手渡そう。
消臭スプレーをまき散らしながら、私はそう固く心に決めた。