部長っ!話を聞いてください!


「部長。聞いてください」


私は静かにゆっくりと話を切りだした。


「昨日のことな……ぶっ、部長っ!?」


部長に視線を戻した瞬間、声が大きくなってしまった。

いつの間にか、部長の片耳にはイヤホンが入れられていた。

部長は空いている手でスマホを操作したあと、それをスーツの上着のポケットへ滑りこませ、ぶら下がっていたもう片方のイヤホンを掴み取り耳の中へ――……。


「ちょっと待ってください! 音楽聞かないでください! 私を部長の世界から追い出さないでくださいっ!!」


耳に栓をされてしまったら、話を聞いてもらえない!

部長が音楽を聞くことを阻止すべく必死に手を伸ばした。

けれど、掴んでいた腕を離してしまったがために、自由になった部長の手に私の手はあっさりと払い落とされていく。


「部長っ!」

「土屋、電車内だ。静かにしろ」

「でも部長……っ!」


ブレーキ音と共に、車両が横に揺れ、再び足元がふらついた。

バランスを崩し、後ろへと足が下がった瞬間――……腰に、温かな手が触れた。

ぐっと力強く、私の体が部長の元へ引き寄せられていく。


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