部長っ!話を聞いてください!
唯一行動を起こしたと言えば……慰安旅行で部長を隠し撮りしたくらいである。
私は完全に“部長に好意を寄せる目立たない部下その○”みたいなポジションではあるけれど、こうやって部長と同じ空間で過ごせているだけで、時折言葉を交わせるだけで幸せなのだ。
私より十歳も年上で、何に関しても大人な部長。
告白しても、子供っぽい私など相手にしてもらえるはずもない。
わかっているからこそ、今のこの状態でじゅうぶん満足なのである。
部長ががたりと椅子から立ちあがった。
「吉田!」
こちらに向かって歩き出したことに気が付き、私は箸を持つ自分の手元へと慌てて視線を落とした。
「神崎部長! 今から出張行ってきます」
斜め後ろ辺りから、同期の吉田君の声が聞こえてきた。
「あぁ、ちょっと待って。先方に渡してもらいたいものが……」
どきりと鼓動が跳ねた。
ちょうど自分の後ろで部長が立ち止まったということが、声で分かったからだ。
部長の朗らかな笑い声に、胸が高鳴る。頬が熱くなる。箸を持つ手が震えてしまう。
「……そうだ。神崎部長、これプレゼントです」
「プレゼント? のど飴が?」
「はい。俺、明日こっちにいないので、一日早い誕生日プレゼントです」
“誕生日プレゼント”