部長っ!話を聞いてください!
7、失意のピンポンダッシュ
会社を出て、その足でひとり向かったのは駅の近くのカラオケ店。
最初は歌っていた。
「ぶちょうのばかーーっ!」
けれど、積み重ねられた切ない記憶や、部長が先輩女子社員からの誕生日プレゼントを受け取ったあの瞬間を思い出すたび、歌声が怒号へと変わっていった。
マイクを持つ手にも力が入る。
「もーーっ!! なんで受け取ってくれないんですかーーっ!!」
受け取ってもらえない理由はきっと……喘ぎ声を聞いてしまって、ドン引きしてしまったから。
でも部長が運悪く聞いてしまった喘ぎ声は私じゃない、姉のだ。
すべて誤解なのだ。とんでもない勘違いなのだ。
「勘違いだって、どう言ったらわかってくれるんですかーーっ!!」
叫んだあと、コホンと咳が出た。
ちょっと叫び過ぎてしまったらしい。喉が痛いし、声も掠れている。
「笑顔が見たかったです……部長の、ばかーー!!」
部長に喜んでもらいたい一心で選んだ誕生日プレゼント。
上司と部下として、良い関係が築けていると思っていた。
だからまさかこんなことになるとは……受け取ってもらうどころか、こんなにも嫌われてしまうとは思ってもみなかった。