部長っ!話を聞いてください!
「姉はどこですか?」
私に謝りたいとか、親にばれる前に合鍵をこっそり戻したいとか、姉がそんなことを考えながらどこかに隠れて私の様子を伺っているような……そんな気がした。
キョロキョロしていると、男が意外なことを口にした。
「いーや。真菜花はいないぜ。俺一人」
「は?」
姉はいない? 俺一人?
「……あ……あぁ、そうですかぁ……それでは失礼します」
姉が居ないとなればなおさら、これ以上この男と一緒にいる意味などない。
顔をそむけて、男の横をすり抜けていく。
マンションのエントランスの戸に手を伸ばし、肩越しに後ろを睨みつけた。
「なんですかっ!?」
なぜか男が、私のあとをついてくる。
「いや。妹ともお友達になりたいなぁと思――……」
「間に合ってます!」
即座に恨みを込めて拒絶する。
睨みつけてから、エントランスに入り、鍵を使ってオートロックを解除し、私はもう一度後ろを振り返り見た。
まだ男が私についてこようとしている。
「なりたくありませんからっ! これ以上ついてこないでください、警察呼びますよ!」
勘違いしている男には、曖昧な言葉よりも、ハッキリ拒絶してしまった方が良い。