部長っ!話を聞いてください!
8、どんな部長も素敵です!
「土屋、どうする?」
男は部長に腕を捻り上げられ、床の上に両ひざをつき痛そうに顔を歪めている。
「警察呼ぶか?」
「そうですね。そうしましょうか」
ずっと大人しくしていたが、私たちの会話を耳にし火事場の馬鹿力を発揮する。
男は部長をつき飛ばし、慌てた様子で走りだした。
すぐさま追いかけようとした部長を……私は呼び止めた。
「部長……今日のところはもういいです」
パソコンデスクの上にある消臭スプレーを手に、私は玄関に向かっていく。
「おおごとにしたら、きっと姉も困りますから」
そして、清め塩の代わりとばかりに、シュッシュッとスプレーを巻き散らした。
「なんの匂いかと思ったら、これだったのか」
部長は私のあとを着いてきたけれど、後ろでケホッと咳き込むと、部屋の方へと戻っていった。
「昨日。家に帰ってきたら、姉があの男性を連れ込んでて、しかも人のベッドで……ほんと最悪ですよ。気持ち悪くて、私もうベッド使えないです」
完全に空になってしまったスプレーのボトルを見つめて、私はため息を吐いた。
「土屋がそう言うなら、俺ももうこれ以上何も言わないけど……今回だけだからな」