もっと聞かせて うっとり酔わせて
瑠花がパウダールームへ席を外した途端

新吾がサッと俺の席に近づいた。

「千葉先輩。」

「週末は混むだろ?」

「はい。そうじゃなくて、先輩が彼女を連れてきたのが初めてなので僕も緊張します。今まで一度もなかったじゃないですか?」

「瑠花は彼女じゃないよ。」

「違うんですか?」

「まだな。」

新吾はわかったような顔をしてカウンターへ戻った。

俺は薄暗くなった窓の外に目を向け

穏やかな海のうねりを見るともなく見た。

瑠花はなぜ俺の誘いにすぐ乗ったのか。

その理由がわからない。

「すみません。戻りました。」

「ハーフで足りなかった?」

「いいえ。充分美味しくいただきました。こんがり焼けたパエリアがパリパリして、何て言うか初めて経験する食感でした。」

俺は口元だけで笑い瑠花を見つめた。

「ところで俺に何か話すことはない?」

「私が千葉さんにですか?」

「そう。例えば次はどこに行きたいとか?」

「行きたい所はありませんけど、聞きたいことはあります。」

「何でも聞いて。」

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