もっと聞かせて うっとり酔わせて
春は暖かくなるからか

変質者と言われてもしょうがないような人が出没する。

これはどうにもならない社会現象なのかわからないけれど

やめてほしい。

あれこれ思いながらふと足元を見た。

なんと連結部分のスチール板の上に座り込んで寝ている人がいた。

こんな所で眠れる人がいること事態考えられない。

連結部の左右にある塩ビのカーテンみたいなビロビロに頭をもたれていた。

そばに置かれた大きなリュックからは本や手帳やレジ袋が飛び出て

電車が揺れるたびに今にも鉄板の下へこぼれ落ちそうな有りさまだ。

この人はいったいどういう神経の持ち主なのかしらと首を傾げたくなる。

ハプニングはこういう時に重なる法則になっていることも知らなかった。

電車がいきなりブレーキをかけ

ギュウ詰め状態で立っている全員の体が前方に傾斜した。

たくさんの叫び声と様々な苛立ち声と共に

乗客がドッと流れ電車が止まった。

瑠花は連結部の空間に投げ出された。

正確にはそこに寝そべる男の上にドサリと倒れた。

「うっ。」

男がうめき声を上げて目を覚ました。

瑠花を抱き上げようと腕を伸ばし彼女の肩をつかんだ。

「すみません。」

瑠花はすかさず謝ったが身動きできず

男の硬い腹の上に乗ったままだ。

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