もっと聞かせて うっとり酔わせて
男は上半身をムクリと起こし

顔を瑠花の顔に近づけた。

「大丈夫か?」

「今どきますから。」

と言ったはいいがどくスペースがどこにもない。

「いいよ、急がなくて。」

「すみません。」

「俺は大丈夫。」

男は瑠花の耳元でつぶやいた。

車両内ではガサガサゴソゴソと各自が狭いスペースで

何とか体勢を立て直すべく動きたいが思うように動けずにいた。

刻々と時間が過ぎていく。

「名前は?」

男は再び瑠花につぶやいた。

「どうしてですか?」

瑠花はあごを引いて体を固くした。

「そう警戒しなくてもいい。」

男は瑠花ににらまれてもまったく動じないどころか

その状態を楽しんでいるかのようだ。

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