もっと聞かせて うっとり酔わせて
「俺は千葉貴士。」

そう言いながら瑠花に名刺を差し出した。

瑠花は見ず知らずの男から名刺をもらういわれはないが

受け取らずに無視するのは失礼だろうかと悩んでいたら

千葉はそれを瑠花のジャケットの胸ポケットにスッと入れた。

「腐るもんじゃないから持ってて。」

「あ、あの。」

「すぐには動きそうにないな。」

「久家瑠花です。」

千葉は瑠花をしばらく見つめて片方の眉をクイッと上げ

声を出さずに瑠花と口だけを動かした。

瑠花は普通に呼ばれるよりも

今のやり方に胸がトクッと鳴った気がした。

千葉から目を離せずにいると

彼はいたって普通にしゃべった。

「いい名前だ。」

瑠花はその言葉に胸がトクットクッとするのを許した。

彼の太く低い声に自分がしびれるような感覚にさせられることに

心臓がドキドキし始めたのを意識できた。

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