素直になれば

第2節‐広田君

『悪かったな。ごめん』
広田君はそういったきり何もいわない。あたしたちは無言で歩いていた。
あたしは自分にドキドキするな!って言い聞かせながら、頭ん中はいろんなこと、
広田君は啓太君とあたしのことしっているのかなとか、あたしがまだ広田君を好きだと思っているのかなとか、なんか明るく話さなきゃとかとかいろいろごちゃごちゃ考えていた。

それで、送ってもらっているのが嬉しかったくせに
『もう全然平気だから。一人で帰れるから。』って、言っちゃってた。
『あ、そ。もう大丈夫なんだ。』広田君はあたしの顔をちらりとも見ずにそう応じた。

あーなんか気まずーい。って思ってうつむいたまま歩いていた。

『じゃあさ、これ観に行かない?今日までなんだ』
そういってあたしの目の前に差し出したのは単館上映のマイナーなフランス映画の記事の切抜きだった。

『あ、あたしもそれ、観たかったんだ!』思わずそう言っちゃった。
それはこの前美容院で読んだ週刊誌で紹介されていた映画で、あたしがずっと気になっていたやつだ。

『じゃ、決まり。』そう言われて、我に帰ったあたしは
『でも、やっぱり、、、、』それはまずい気がする。
『何言ってんの。今日までだよ。行かないの?』
『え、あ、い、行く。』とっさに答えた。

別にデートとかってわけじゃないし、上映が今日までなんだし、たいしたことじゃないよね。
、、、これは啓太君へと自分への言い訳だ。後ろめたい気持ちはどっかにある。
それにしても、広田君はどういうつもりなのかな、、、。わかんないや。

啓太くんと違って、広田君はちょっと強引だ。でも、嫌な感じはしない。
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