素直になれば
隣に広田君が座って映画を観るなんて、あり得ないことだったはずなのに、広田君はどうってことのないようにふるまっているし、なんだか自然な感じがする。
といっても、あたしの心臓はかなりスピードをあげているんだけど。

始まる前は、アレコレ考えていたくせに、あたしは想像以上に映画に引きこまれてしまった。

『よかったねー。やっぱ、観て正解だった。あたし、あの場面が好きだなー、ほら主人公が真剣に言うことが裏目に出ちゃうとこ、笑ったよ』
興奮して、話した。
『あ、俺もあそこ好きだな。笑えるよなー』
『でさ、でさ、彼女がこんな風にプリプリしちゃって走り去るとこ?』そういってあたしはその場面を真似てお尻を振りながら広田君を追い越してみせた。
広田君は涙を流しそうになりながら
『お前、変な奴だなー』って笑いこけた。

広田君の顔をみるだけでドキドキするくせに、映画の感想が妙に合うもんだから、それが嬉しくて話しているうちにすっかり盛り上がって、
『映画観た後で、話せる人がいると楽しさが倍増するなー。同じ場面で笑える人っていいよねー』って言っちゃって、
あー何言ってんだろ、あたし。変に誤解されちゃうかもー。って思ったら赤くなっているのが自分でわかるくらい顔が熱くなった。やっばー。

『同じ監督の作品が来週から封切りになるから、観たくない?また一緒に行く?』
そんなあたしにお構いなしに広田君はどうってことのないような顔をしてあたしを誘った。
あたし、、、誘われたんだよね?広田君に映画に。
< 13 / 30 >

この作品をシェア

pagetop