素直になれば
あたしは、気合を入れ過ぎて(?)服を迷いに迷うし、言うことをきかない髪に悪戦苦闘して、映画館の前に着いたのは、上映開始時間の数分前のぎりぎり。
で、駅からダッシュの息絶え絶え状態で、『ごめんなさい、ごめんなさい』って必死に誤った。
いつも寛大な啓太くんと違って、広田君の顔は明らかにムッとしていたから。

広田君はムッとしたまま、
『おっせーよ、早く』と言って、もう走れなーいって感じのあたしの手をとった。
あたしたちは広田君の持っていた、整理番号票とチケットを渡して館内に滑りこんだ。
その整理番号票が1番、2番だったのをあたしは見逃さない。
(そんなに早くから来ていたの?)あたしは広田君を見たけど、その表情からは何にも読み取れない。
でもあたしの遅刻のせいで、結局1番後ろの列の1番左端しか空いていなかったんだよね。なのに、
『おう。間に合ってよかったな』広田君は気にした風もなく、そう言って初めて笑った。

あたしたち、まだ手をつないでいて、それに気づいたあたしは、走ったせいとは別の心臓ドキドキ状態に陥った。
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