素直になれば
『困らせた?でも、今日のこと誤る気はないよ。夏休み前に好きだって言ってくれた朝倉と今の朝倉は違うのかもしれないけど、言っておきたかったんだ。俺、男は好きな女に、先に『好き』って言わせちゃいけないって思っているんだ。馬鹿みたいなこだわりだと思うかもしれないけど、先に言われてたまるかよって思っちゃうんだよな。』

あー少し、分かった気がした。
でも、あたしはただ黙っていた。なんて言えばいいのか、自分の気持ちすら分からなくなっていたから。
多分すごく嬉しかったんだろうと思う。
でも、啓太君を遠くに葬ることもできなかった。

啓太君とのことをあたしから言いだせば、広田君はもう二度とあたしを誘ったりしないだろう。といって、啓太君の存在に目をつぶって広田君の告白に素直に喜ぶことはできなかった。

広田君が言うように、あたしはもう、夏休み前のあの時のあたしとは、同じじゃないんだろうと思う。それが何故か悲しかった。

しばらく沈黙になっちゃって、

『んーわかった、今日はもうこの話はやめよう。』
それから、広田君は映画の話や、夏休みの課題の話をして、あたしもなんとなく相槌を打って、結局そんな状態のまま、別れた。
別れ際に『メールしていいかな。別に返信しなくてもいいからさ。』と言われて

うつむいたまま、『うん。』って答えた。
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