素直になれば
『理子にも心配かけたな。』とパパが珍しく神妙な顔つきで、あたしに話かけるから、ちょっと動揺しちゃった。
『何言ってんの。でも、思ったより回復が早くてよかったじゃん』
パパの顔をみないでそう答えた。顔をみたら、目がうるうるしそうだったから。

『本当のことを言うと、もうだめかな、もとの健康な状態に戻れないんじゃないかなって思ったよ。体が動かなくなった時、俺はもう死ぬのか、、とさえ思ってしまったから、今は生かされたんだと思ってる。そう思ったら、いろいろなことに感謝の気持ちを持つようになったよ。
そして、久しぶりに何もしないで、１日中ベットの上にいたら、生まれてきた、生かされたことの意味をちゃんと考えなくてはいけないって思ったよ。』
珍しくパパは、真面目にあたしに語る。

『あとどれくらい生きるかはわからないけど、後悔しない人生を送りたいって思ったんだ。』パパはそう続けた。

『後悔しない人生って、じゃあ今までの人生に後悔しているみたいじゃん』
あたしは、パパの言いたいことはわかっていたけど、わざと、そう切り返した。

『うーん、なんて言うかな、結果オーライっていうのもいいけど、自分の人生を自分で選択するっていうことかな。人の意見を聞いて、人の気持ちに配慮することは大切だけど、自分の心の声をちゃんと聞け。ってことかな。だから、理子も、パパやママのことを考えて、自分の本意と違うのに、無理に自分を納得させるんじゃないぞ。世間体や回りの意見もときには必要だけど、本当に大切なのは自分の心の声に素直になることなんだ。ま、それが後悔しない人生ってことかな。』

パパの言い方は、あたしに語りかけるのと同時にパパ自身にもいいきかせているようだった。

『簡単そうで、これがなかなか難しい。それは自責を意味するんだよな、、、』
最後は独り言のように、あたしから外の景色へと視線をずらした。

パパの話はそれで終わった。

【自分の心の声に素直になる。それが後悔しないってことだ。】
あたしはパパの言葉を頭の中で繰り返した。
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