君をまとえたら
ζ.君を纏いたい
金沢の旅は強烈に終わった。

なぜならオヤジの店から一歩外に出た途端

セナが帰ると言い出したからだ。

「マジで帰る気か?」

「はい。」

「ホテルはどうするんだ?」

「・・・・・」

返事なしかよ。

いったい何がどうしたって言うんだ?

俺にはさっぱり見当がつかなかった。

二人で駅へ戻った。

前を歩くセナの肩を軽くつかんだ。

「セナ。」

駅ナカは観光客でごった返していた。

俺はこのまま帰る気はさらさらなかった。

「もう一度聞くが、本当に帰るのか?来たばかりじゃないか。」

セナは振り返ったがダンマリだ。

「セナ?」

俺は何か間違っていただろうか?

それともまだ泣いているのだろうか?

途方に暮れていると

胸に重みを感じた。

トスッと目の前にセナの頭があった。

セナは俺の胸に頭をもたせかけ下を向いたままだ。

「ごめんなさい。私のわがままであちこち連れ回して、ごめんなさい。」

俺はモヤモヤしたままセナの腕をつかんだ。

「来いよ。」

柔らかな二の腕辺りをつかんで歩いた。

ロータリーでタクシーに乗り込み

ホテルまで無言を通した。

着いてからも俺はセナの腕をつかんだまま

エントランスからロビーを抜けて

チェックインカウンターへ行き

サインを済ませてエレベーターに乗った。

セナは相変わらずうなだれたままだ。

俺はこの女が理解できなかった。

今まで付き合ったわかりやすい部類の女とは正反対で

もてあまして有り余ってどうにでもなれだ。

キーで部屋のドアを開けた。

「入れよ。」

ぶっきらぼうにならない程度に声をかけた。

先にセナを中に入れ

俺は後ろ手にドアを閉めた。

部屋はむろんシングルだ。

ベッドとテレビ、バス・トイレしかない。

狭いスペースに突っ立ったセナをベッドに腰かけさせ

俺はセナの正面に向かい合う形で

床に膝をついた。

「セナ、泣いているのか?」

彼女は首を横に振った。

「良かった。じゃ、話してくれないか、なぜ急に帰りたくなったのかを。俺はバカだから教えてくれないとわからないんだ。」

セナは顔を上げて俺の目を見た。

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