黄金の覇王と奪われし花嫁
ユアンだって、本当はわかっているのだ。この男の言っていることは正しい。

部族のために自分ができることは死ぬことなんかじゃない。
誇り高きシーンの血を次代に残すことだ。

頭では理解している。

けれど、心がどうしてもこの男を拒否するのだ。


「抱きたいのなら、私の意思など確認せずとも勝手にしたらいいわ。
あなたの言ったとおり、私はもうあなたの所有物なのだから」

ユアンは感情的に怒鳴りつけると、頭に巻いていた金色のベールをバラクに投げつけた。

これでは、まるで八つ当たりだ。

敗者の女は勝者が受け継ぐ。これは風の民にとって当たり前の事だ。
まして、バラクとユアンは婚礼の儀も終えているのだ。

バラクが何をしようと、咎める者などいやしない。


「それもそうだな。女が新しい家に馴染む為には、子を産むのが一番だと言うし・・」

ゆっくりとバラクが立ち上がると、ユアンはびくりと肩を震わせた。

覚悟を決めたつもりでも、身体が強張る。

バラクがユアンの肩に手をかける。
ユアンは何も考えまいと、ぎゅっと固く目を瞑った。


シャラリと首筋に冷たいものが触れる。

「それはお前が持っておけ」

ユアンの首には見覚えのある首飾りがかかっていた。

色とりどりの宝石が連なるこの首飾りは・・・ユアンの父、ガイールがいつも身につけていたものだ。

ユアンは父を思い出し、首飾りを両手に握り締めた。

ふと顔をあげると、黄金の瞳がユアンを見つめていた。
戦場に立っていた時の、獲物を狙う狼そのもののような獰猛さはまるで無く、別人のようだった。


「バラクだ」

「え?」

「夫の名前くらい覚えておけ、ユアン」

それだけ言うと、バラクはユアンに背を向けオルタを出ていった。

ユアンは呆然とその背中を見送った。
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