黄金の覇王と奪われし花嫁
「俺やバラクが幼い頃、ウラール族は本当に弱小部族だった。
大切に育ててきた家畜や部族の女達を無残に奪われても、抗う力も無かった。
バラクも俺も元々はウラールの族長の血縁じゃない。だから、生き残れた」
ナジムは自分達の過去を悔しさを噛み締めるように語った。
「シーン族のような有力部族に生まれたあなたには決してわからないでしょう。
あなたが初めて受けた苦しみを、俺達は何度も何度も味わってきたんです。
俺達は力が欲しかった。
そして、実力でそれを手に入れた。
バラクは必ず、このアリンナの王になる。俺はその為なら、どんな事でもする。
ユアン、もしあなたがバラクの歩む道の妨げとなるのなら、俺は躊躇うことなくあなたを始末しますよ」
穏やかな仮面の下の素顔を、初めて見たような気がする。
この冷酷に思えるほどの強さがナジムの本質なのだろう。
ナジムも、そしてバラクも、それぞれの覚悟を持って生きている。
自分のさだめを知っているのだ。
「あぁ、まだ質問に答えていませんでしたね。 バラクは俺と違って、裏表のない素直な男ですよ。
本人の言葉通り、あなたを気に入っているんでしょう」
ナジムはにっこり笑ってそう言った。
「・・・そんな質問はしてないわ」
「クスクス。そうですか?
それを一番知りたいのかと思ったのですが、余計なお世話でしたね」
「気に入られる理由なんてないもの」
洗濯物を片付けると言って立ち上がったユアンの後ろ姿をナジムは見つめた。
「良かったな、バラク。ユアンはお前に興味を持ちはじめたようだ」
ナジムは心の中で、そうバラクに話しかけた。