黄金の覇王と奪われし花嫁
「まさか!ユアン様がお美しいから、他に妻は必要ないってことですよ」

タオはにっこりと笑った。
その笑顔はとても可愛らしいのだけど・・・

「タオ。あなた、ぼんやりとしか物を認識できないって言ってたじゃない・・」

ユアンはジロリとタオを睨みつけた。

「はい。残念ながら、僕はぼんやりとしか見えません。
けど、バラク様がユアン様はとても美しいと仰っていたので。バラク様は嘘をつかない方ですから」

それに・・とタオは続けた。

「ユアン様がきてから、ウラール族は見事に負け知らずです。 みんな、ユアン様が風の女神のご加護を引き寄せてくれたと噂してますよ。
だからこそ、バラク様はユアン様を大切にしたいのでしょう」


風の女神のご加護とは・・

何の実態もない噂が広まっていることにユアンは驚いた。


「別によいじゃありませんか。風の民はそういう縁起のよい話が大好きですもの」

今日はバラクが留守なので、久しぶりにトゥイと寝る前のお喋りを楽しんでいた。

「だけど・・私は何もしてないし。
万が一、負けた時に私のせいだと言われたら嫌だわ」

ユアンは髪を解き、寝台にごろりと横になった。
ウラールでの暮らしにも慣れたとは言え、第一后妃の立場はそれなりに気疲れもする。
トゥイと二人きりの時間はやっぱり落ち着くのだ。

「大丈夫ですよ。ユアン様だって負けるのは万が一だと思ってらっしゃるんでしょう」

トゥイの言葉にユアンははっとした。

確かに言われた通りだ。

バラクが負けるところは、バラクが死ぬところは何故だか想像できない。

バラクがアリンナを統一するという夢のような話を、いつの間にかユアンまで信じてしまっていた。
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