黄金の覇王と奪われし花嫁
太陽の光を宿した黄金に輝く髪と瞳。
野性の獣のごとき、しなやかな身体。


ひときわ光彩を放つその男に、ユアンは思わず気圧された。


ーーこの男が、黄金の狼。


なんてぴったりな呼び名だろうかとユアンは思った。

ここ数年で急激に頭角を現してきた、辺境の部族ウラール族の若き族長、バラク。
機動力と突破力に優れたウラールの騎兵の先頭に立ち、草原を駆けるその姿は黄金の狼と呼ばれ、近隣の部族を震え上がらせた。

その黄金の狼が、とうとうユアンの父が率いるシーン族にも牙を剥いたのだった。

「ユアンさまっ」

「ユアン、無事だったか」

バラクの後ろから、若い女と年老いた男
がユアンに駆け寄ってくる。
ユアンの世話係を務めていたトゥイと部族の長老ザヤだった。

「早まったマネをするな、ユアン。風の民は女は殺さない。お前は生きていくんだ」

ザヤはユアンを諭すように言うと、背中に手を回しきつく抱き締めた。



風の民にはいくつか共通の掟があり、その一つが女を殺めてはならないというものだった。

古来より家畜を育てることを生業にしてきた風の民は血が濃くなる危険性を熟知している。よって、同部族内の婚姻は避けてきた。例え敵であっても、他部族の女は貴重な配偶者候補だ。殺さずに連れ帰るのが掟だった。
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