黄金の覇王と奪われし花嫁
「・・なに? どうしたの?」
バラクは真紅の外套をバサリと脱ぎ捨てると、ユアンの隣に腰を下ろした。
バラクと二人きりで会うのはあの夜以来だ。空気が妙に重苦しく、ユアンは緊張で鼓動が早まるのを感じる。
バラクは何も言わず、視線を落としていた。珍しくおろしたままにしている黄金色の髪がほのかな灯りに照らされ、一際明るく輝いている。
「ーーハカ族の黒蛇を知っているか?」
バラクは床を見つめたまま、ぽつりと呟いた。
「ハカ族は知っているわ。ここより北に拠点を持つ比較的大きな部族ーーよね。黒蛇というのは?」
「そうだ。 黒蛇はハカ族の族長、ネイゼルの渾名だ」
「そうなの」
「近いうちに、俺はネイゼルと戦うことになる」
そこまで言うと、バラクは顔を上げユアンの方を向く。
すっとバラクの腕が伸びてきて、大きな掌がユアンの頬を包んだ。
白く滑らかなユアンの肌と違い、バラクの掌は皮が厚くなり、無数の傷跡が残っていた。
その一つは初めて会った時にユアンがつけたものだ。
「もし、もしもの話だがーー俺やナジムに何かあっても、お前は生きろよ」
静かだが、力強い声でバラクは言った。
ユアンはじっとバラクを見返す。
なぜ、もしもの話などする必要があるのだろうか。
「そんなことっ。あなたに言われなくても、そうするわよ。私はあの地平線の彼方に連れていかれたって、生き延びてやるって決めたんだから」
バラクは真紅の外套をバサリと脱ぎ捨てると、ユアンの隣に腰を下ろした。
バラクと二人きりで会うのはあの夜以来だ。空気が妙に重苦しく、ユアンは緊張で鼓動が早まるのを感じる。
バラクは何も言わず、視線を落としていた。珍しくおろしたままにしている黄金色の髪がほのかな灯りに照らされ、一際明るく輝いている。
「ーーハカ族の黒蛇を知っているか?」
バラクは床を見つめたまま、ぽつりと呟いた。
「ハカ族は知っているわ。ここより北に拠点を持つ比較的大きな部族ーーよね。黒蛇というのは?」
「そうだ。 黒蛇はハカ族の族長、ネイゼルの渾名だ」
「そうなの」
「近いうちに、俺はネイゼルと戦うことになる」
そこまで言うと、バラクは顔を上げユアンの方を向く。
すっとバラクの腕が伸びてきて、大きな掌がユアンの頬を包んだ。
白く滑らかなユアンの肌と違い、バラクの掌は皮が厚くなり、無数の傷跡が残っていた。
その一つは初めて会った時にユアンがつけたものだ。
「もし、もしもの話だがーー俺やナジムに何かあっても、お前は生きろよ」
静かだが、力強い声でバラクは言った。
ユアンはじっとバラクを見返す。
なぜ、もしもの話などする必要があるのだろうか。
「そんなことっ。あなたに言われなくても、そうするわよ。私はあの地平線の彼方に連れていかれたって、生き延びてやるって決めたんだから」