黄金の覇王と奪われし花嫁
「お前が俺の妻なのは今日までか・・
最後の夜くらい一緒に寝るかっ」

「えっ?」

ユアンが抵抗する間もなく、バラクはユアンを抱きかかえるように寝台に横たわった。
バラクの厚い胸の中にユアンの身体はすっぽりと包まれた。

焚かれた香の香りが鼻をくすぐり、とろりと空気が濃密になったように感じる。

バラクの鼓動の音までもはっきりと聞こえる。

ドクン、ドクン、ドクン。

それは早く、大きくなっているような気がする。

違う。これはバラクではなく、自分の鼓動だろうか。

ユアンは自分の顔に熱が集まり、頬が赤く染まっていくのを感じる。

ユアンーーとバラクに耳元で囁かれ、全身がびくりと跳ねた。

心臓が止まるほど驚いた。

が、そんなユアンとは違いバラクは平静だった。
文字通り、一緒に寝ようとしているだけで深い意味は無いらしい。

「俺がお前の嫁ぎ先をナジムの元に決めた理由・・わかるか?」

ユアンは少し考えてみた。けれど、よくわからない。

「嫌がらせ? それ以外思いつかないわ」

「あははっ。嫌われたな、ナジムも」

「向こうが私を嫌いなのよ」

ユアンはむっと唇を尖らせた。
バラクはその顔を見て、また笑った。

「俺の知る限り、あいつは俺の次にいい男だぞ。それに、ウラール族のナジムの名は広く知られているからな。 もしもの時にも、お前は良い待遇で迎えられるだろう」

もしもの話なんて聞きたくないけれど、その点はバラクの言う通りなのだろう。
実際にユアンはガイールの娘だったから、ここでも良い扱いを受けている。

「それが理由?」
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