黄金の覇王と奪われし花嫁
「ーー黒蛇の目的は何だと思う?」

女達の保護を任せた筈がいつの間にか、定位置ーバラクの後ろに戻ってきていたナジムがバラクに問う。

「俺の首・・・だろうな、間違いなく」

バラクが油断していた一番の理由、そもそも奇襲はこのアリンナの地では確実な策ではない。それどころか、仕掛ける側に分が悪いとも言える。

アリンナは地平線まで見渡せるような大草原で、身を隠す山々も目につきにくい逃げ道もないからだ。

はっきり言って、奇襲は賭けだ。

ネイゼルが賭けに出た理由、それは自分の首に他ならないだろう。

ハカ族側の方により大きな被害が出たとしても、バラクの首を取れれば勝ち。

そういう算段をネイゼルはしたのだろう。

「ネイゼルを探すぞ」

バラクの短い言葉に、ナジムは頷いた。

向こうが戦いたいと言っているのだ、潔く受けてやろうじゃないか。

バラクはぐるりと周囲を見渡すが、砂塵がひどく思わず片目を瞑る。
視界が悪く、ほんの少し先ですら見通せない。

「ーーたすけ・・て・・」

後方から弱々しい消え入りそうな声が聞こえ、バラクは振り返った。
目を凝らして、声の主を探す。

地面に倒れこむように横たわっている人影を見つけた。

ーー女?

顔はよく見えないが、身に付けている衣服は女物のようだ。ハカ族が女連れで来ている訳はないから、逃げ遅れたウラールの女だろう。

まだ息があるのなら保護しなければ。
バラクは思い、女に駆け寄った。

「おいっ、誰だ? 大丈夫か」

バラクが女の肩に手を伸ばした瞬間のことだった。
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